移動ロボットが走行するのに必要な力

簡単のために,ロボットは直線走行とする。

モータが発生した回転力と動輪が路面を蹴る力

先ず,1つのモータの発生するトルクτが減速機を介して動輪に伝えられたとき,動輪が地面を蹴る力を求める。 動輪の半径をRw,減速機の減速比をγ,減速機の伝達効率をηとし,動輪のスリップはないものとする。

動輪が地面を蹴る力の大きさFに動輪の半径Rwをかけた回転力のモーメントの大きさが,動輪の車軸トルクηγτの大きさと等しい。

RwF = ηγτ                                    (1.1)

ここで,Fが,その移動ロボットの加速度を与える力と等しいから(作用と反作用),

F = ηγτ/Rw                                  (1.2)

が求める式だ。 ここでは,独立二輪駆動型の移動ロボットであるから,直線走行しているときは,2つのモータがそれぞれの動輪と同じ方向に回転させるから,

F = 2ηγτ/Rw                                (1.3)

ここで,トルクτが同じでも,減速比γと動輪半径Rwの比γ/Rwが小さくなると,Fは小さくなる。 すなわち,減速比γを小さくするか,動輪半径Rwを大きくすると,トルクτが同じでもFが小さくなるのだ。

同じロボットで,同一のモータと減速機を用いて,動輪の半径Rwのみを変えて,実験をすると,大きな動輪径をもつもののほうがFが小さくなる。即ち,加速度が小さくなる。しかし,Rwが大きいほうが動輪の円周長は長いので,モータの回転速度が同じなら単位時間当たりに進む距離が長くなり,速く走ることができる。

同じモータと同じ減速機を使うと言う条件では,加速度あるいは牽引力を重視するなら動輪径はあまり大きくないほうが良い。 逆に,最高速度を重視するなら,動輪径はある程度大きいほうが良い。

同一のモータと同じ動輪径を用いて,減速機の減速比γのみを変えて実験すると,小さな減速比を持つもののほうがFが小さくなり加速度が小さくなる。

動輪径を大きくすることと,減速比を小さくすることは同じ効果を生む。  −−−式を見れば分かることだが,実験をしたくなるのはなぜだろうか?

一定速度で走行中の力のつり合い

移動ロボットが静止しているか,一定の速度で直線走行しているとき,ロボットの加速度αはゼロである。 ならばモータが発生するトルクはゼロで良いのだろうか? 摩擦抵抗の無い世界であれば,OKだ。 しかし実際には,モータが発生している力の大きさは,ロボットの走行抵抗の力の大きさにつりあっているのである。 の内訳を考える。

ロボットの走行による空気抵抗の大きさair(v), 路面と車輪の転がり摩擦の大きさw(v),車軸の軸受けや減速機の摩擦の大きさの合計g(v)などである。 これらは移動ロボットの速さに関係するので,の関数としている。 いまロボットの速度が遅く,air(v)が無視できるものとする。 定速走行状態では,

F = fw(v) + fg(v)                               (1.4)

というつりあいの式が書ける。 この式を

F −( fw(v) + fg(v) ) = 0                       (1.5)

(1.5)の形に書き表しておくと,地面を蹴っている力の大きさFから摩擦による力の大きさを引くと,残りの力(余力)はもう無い。と読める。もしこの余力があるとすると,実はその力がロボットの加速に寄与する。 即ち,ロボットが加速してだんだん速度が増しているとき,単位時間当たりの速度の増加率が加速度αであり、このαにロボットの質量Mをかけたが加速に寄与する力に等しく,

F −( fw(v) + fg(v) ) = Mα                      (1.6)

回転部分の慣性モーメントも含めてみる。

動輪の回転角加速度をβとして,動輪の慣性モーメントをIとする。 簡単のために,モータ回転軸の慣性モーメントや車軸,減速機の回転軸の慣性モーメントを車輪の慣性モーメントに含めて考えることにする。

動輪の回転角加速度を増加させるためのトルクはと書ける。 これがモータから減速機を介して伝達されるためのトルクηγτのする仕事の一部になる。 従って,ロボット本体の加速に寄与するトルクはこれらの差分τ’

 τ’ = ηγτ−Iβ                                 (1.7)

になる。